「……はい?」

 どうして、こんなことに……。

 あれよあれよといううちに攫われてきたのは、森の中に静かに佇む桜月神社だった。

桜月神社は実家があった住宅街の裏手にあり、参道から見ると寂れてこじんまりとした神社なのだが……。

どういう仕掛けなのか、鳥居をくぐった瞬間、私は広い境内に立っていた。

そして、社は水に浮かぶ朱色の大きな神宮に早変わり。

そこで私は、犬の耳と尻尾が生えた六歳くらいの白髪の男の子と二十代半ばくらいの黒髪の男性に出迎えられた。

彼らはこの神社の狛犬で、神様である朔の使いだという。


「ささっ、雅様。これに着替えてね!」


 私はどこかの部屋に案内されるや否や、可愛らしい白髪のほうの狛犬さんに白無垢に着替えさせられたあと……。


「さっさと歩け。朔様を待たせるな」


 目つきの悪いヤンキーのような黒髪の狛犬さんに、半ば連行されるような形で本殿へ向かい、そのまま結婚式を挙げさせられた。

 狛犬さんたちの介添えによって、不本意にも奉り神の朔と大中小の三つの盃に注がれたお神酒を三口で交互に飲み、夫婦の契りを交わす。

 わけがわからない……。

 戸惑っている間に式は終わり、勝手に神様の妻にさせられた私は本殿から離れたところにあるだだっ広い和室に案内される。

そこにはぴったりとつけられた二枚の布団が敷かれていた。

朔が「座れ」と顎を動かし、私は言われるがまま布団の上に正座する。
正直、途方に暮れていた。

 開け放たれた障子窓の向こうには、月明かりに照らされた池。

それを呑気に眺めている朔の横顔を見つめること数分。

いよいよ限界だと声をかける。