「ちょっと!」


 慌ててその胸を押し返せば、細身なのに思ったより筋肉質で驚いた。

 胸板が厚い……。
あと、なんか甘い香りがする。桜かな? 

神様も身体は人間の男の人と変わらないんだな……って、私はなにを考えてるんだろう。

 煩悩を振り払うように、ぶんぶんと頭を振る。

朔は眉根を寄せて、奇妙なものでも見てしまったかのような顔をした。


「なにをしている」

「聞かないでください」

「……おかしなやつだな。それより、お前も適齢に達しただろう。だから迎えに来た。すでに式の準備も整っている」


 式の……準備?


「いやいや、さっきからなんの話をしているのかさっぱりなんですけど……」


 どちらかというと〝おかしなやつ〟は、神様のほうだ。

 けれども朔は絶賛混乱中の私の顎を持ち上げて、不敵に微笑む。


「迎えに来たぞ、俺の花嫁」

 はな、よめ……はなよめ……花嫁!? なんで私が!?

『花嫁』の単語が頭の中でリフレインして、ついに脳の処理が追いつかなくなった私は間抜けな声をあげた。