「あれから数十年しか経っていないというのに、お前の記憶力の乏しさには心底がっかりする」

「なっ……」

 ひどい。身に覚えがないけれど、私は神様を失望させているらしい。

「……まあ、いい。雅、もう忘れるなよ。三度目はないと思え」


 人の記憶力が乏しいって貶しておいて、まあいいってなんだ、まあいいって。

というか、三度目ってどういうこと?

 私の中で文句と疑問が同時にわきあがる。

その間にも、神様は刀を腰の鞘にしまいながら、私の前まで歩いてきた。


「雅、俺は桜月神社の奉り神――朔。このときを長らく待ちわびたぞ」


 神様――朔はなにかを噛みしめるように、じっと私を見つめてくる。

それから、尊大な態度からは想像できないほど優しく、私の左手をすくうように取った。

 そのとき、ふいに胸をよぎる懐かしさ。

 私、この手をどこかで……。

 見たのか触れたのか、この光景に既視感を抱いていると、朔は私の手を引っ張って腰を抱いてくる。