「おい、見てみろよ。また芦屋さんの頭の上の電気、点滅してるぞ」


 そんな男性社員のひそひそ話が聞こえて、私はため息をつく。

 不動産会社の事務で働く私――芦屋雅は度重なる怪奇現象に悩まされていた。

 今まさに頭上で起こっていることのように、取り替えたばかりの電球がチカチカし出したり、給湯室の前を通れば勝手に水道の水が流れたり、パソコンの画面が血のように真っ赤に染まったり。

ただ、悪いことばかりが起きているわけでもない。

階段から落ちそうになったときに風が下から吹き荒れて転倒を免れたり、私の噂話をする同僚の髪が数本引っこ抜かれたり。

けれど、結局それらを目撃した社員からは気味悪がられた。

 これもすべて、あやかしや神様の仕業だ。助けられてもいるが、〝見えない〟人たちからすれば得体の知れない怪奇現象だ。

 こんなだから歴代の彼氏全員からは『もう、耐えられない(怪奇現象に)』のセリフでフラれている。

おかげさまで二十五になってもまともに彼氏ができやしない。

 私は肩身の狭い思いで席を立ち、化粧室に逃げると手洗い場に手をついて項垂れた。