「かなり頭にくるけど、あたしは歩と友達やめたくないから」


洗面台に手を付き、下を向いて前かがみで話す優奈は肩に力が入っている。


本当はあたしを殴ってしまいたいはずだ。


「親友が彼氏とキスしてるのに友達やっていけるの?」


近くにいるのに遠く感じる優奈。


いっそのこと殴ってもらいたい。


許されるなんて思ってないが、自分を痛めつけてしまいたかった。


「あたしは歩が必要なの!親友は歩しかいないもん!」


洗面台をギュッと握ると、優奈は悔しそうに唇をかみしめる。


細い体の線がますます細く感じてしまう。


こんなあたしを小さな優奈は許してくれた。


必死で感情を押し殺しながら…


「優奈、本当にごめんね」


「もういいから。この話は終わり。部屋に帰ろう」


「でも…」


「いいから!」


優奈に右手を差し出され戸惑っていると、優奈は躊躇せずに微笑んで手を握ってくる。


とても温かな手。


指を絡め、握られた手の温もりを感じ、優奈自身の温かさに触れる。


「ほれ。みんな待ってるから部屋に行こう」


「うん」


あんなに長かったはずの廊下は信じられないくらい短く感じ、眩しく見えた。


友情は再確認したものの、どこか気持ちは曇りが晴れない。


してしまった事はとても醜い事。


でも、頭ではわかっていても、理屈では抑えられない。


怜が好き。


唇を重ねてしまったから?


好きだと言われたから?


違う。


あたしは初めて彼に出逢った日から恋に落ちていたんだ。


好きになるのに理由なんかいらない。


優奈、ごめんね。


あたし、怜が好きだったんだ。


お前に言われる前から彼が好きだったんだ…


だからだよね。


二人の恋路を引き裂いてしまうのは紛れもなく、親友のあたし。


もう、止められなくなってたの。


優奈のものだから欲しかった訳じゃないよ。


彼が欲しかったの。


彼が愛しくなってたの…