「あたし寝てないよ。寝てるフリしてた」


「えっ!?」


「歩、怜とキスしたでしょ?」


「してないよ!!」


凄い勢いで声を出し、最低な嘘をついた。


自分の身だけが可愛かったあたしは、瞬時に守りに入ったんだ。


絶対嘘なんてついてないと言わんばかりに優奈へしがみつく。


「したでしょ!!」


「布団挟んでたからしてない!!」


必死で自分は潔白だと嘘に嘘を重ねる。


嘘なんか大嫌いなのに、どうしても優奈を裏切り通そうとしてしまう。


「見てたから。もう本当の事言ってよ」


優奈は涙目で訴えかけてくる。


何一つ悪くない優奈の目に、涙を溢れさせている最低なあたし。


弱みを見せた事のない女が、今にも崩れてしまいそうになっている…


「うん。しちゃった…。ごめんなさい…」


さっきの勢いは何処に行ったのか、真逆な虫の息の小声で頭を深々と下げ、めいいっぱい自分なりに謝る。


下げた頭を上げれない。


「顔あげたら?しちゃったもんはどうしようもないじゃん」


「ごめん…」


「すげぇムカつく。歩も怜も」


言われた通りに顔を上げると、優奈は再び蛇口をひねり、水を口いっぱいに含み出した。


やりきれない気持ちでいるのが優奈のぎこちない動きで伝わってくる。


「あ。んと。あの。えっと」


あたしはうまい言葉が出てこなく、動揺して意味不明なジェスチャーをしていた。


そんな馬鹿げたあたしを笑いもせず、優奈は呆れ顔で見る。


「歩は怜が好きなの?」


本当の事を言わなければいけない。


本当の気持ちを伝えなければ…


「可愛いとは思うけど好きじゃない」


せっかく優奈がくれたチャンス。


それを自らの手で握り潰した。


あたしはどこまでも腐ってる。


自分はどこまでもいい人でいたかったんだ。


間違った考え。


でも、あたしは間違ってるなんて思ってない。


逃げてるだけだったのに…


「信じるからね?歩、信じるからね?」


「うん。嘘つかない」


どこまで自分を惨めにすればよかったんだろう。


動き出した歯車を止めるどころか加速させてしまっている。