二人の会話が始まれば何もすることがないあたしは、隣に座り、相変わらずテレビを見ていた。


ドラマの合間に流れる聞き慣れたCMの曲を口ずさみ、鼻歌を歌ってみる。


置いていかれた虚しさをかき消そうと、明るくして二人の声を必死に消そうと無駄な足掻きでもがく。


だが、ここ最近優奈の様子が何かおかしい。


電話の合間、眉間にしわを寄せ、唇を噛む回数が格段に増えている。


何かを話し、何かを叫ぶ。


そして、必ずあたしをギッと睨んだ後、必ずこう言った。


「ムカつく!はい、歩かわって!」


「はっ!?」


突然怒鳴りだした優奈は、状況を把握させる隙も与えず、電話をあたしに押し付けてくる。


「はいぃぃぃ!?」


「いいから!!」


なんら変わりなかったのに


いつもと同じはずだったのに


付き合ったばかりの二人の喧嘩は、突然始まった。


いつもとはあきらかに違う、激しい喧嘩が。


そしてその日


あたしは再び「激流」という名の現実に無理矢理引き戻されたんだ…


優奈の機嫌が損ねると、隣にいるあたしに必然的に毎度電話を渡される。


だからあたしは仲裁役をかってでて、二人を繋いでいたつもりだった。


繋いだつもりだったんだ。


「怜君?また優奈と喧嘩?どうしたん?」


「なんなんだかわかんねぇ。マジ意味わかんねぇ」


怜も様子がおかしく、いつになく怒っている。


男の割にどちらかというと柔らかい声質の怜だが、今の声の感じから怒りは相当なものだとはっきりわかった。


「まず落ち着けって。優奈意地っ張りだからさ、ごめんな」


とにかく怜の怒りを静めたい一心で、優奈が謝らないならあたしがかぶればいいと、とりあえず謝る。


「だから俺は…」


「ん?」


話の流れが怪しげな方向に向きかけた時


もっとも恐れていた現実が降りかかった。