「えっ、うん!わかった!ありがとう。嬉しい!!」


なんとなく優奈の目が見れなくて、手にライターを持ち、タバコに火を付けかけたその時、優奈の弾んだ声が耳に入ってきたんだ。


この声は、あたしの敗北を嫌でも告げた証。


負けた。


負けたんだ…


もう、怜は優奈のもの。


優奈は、怜のもの…


負けた悔しさがひきつり笑いに変わり、沈む心。


そんな心は偽りのピースサインを優奈に送っていた。


すると、優奈のくったくのない笑顔とピースサインが即座に返ってきたんだ。


つきあっちゃったか…


複雑な気持ちのまま偽りの気持ちに気付かれまいと、あたしはひたすら作り笑いをして自分をごまかした。


優奈は電話を切り終え、達成感なのか安心感なのかはわからなかったが、赤みがかった頬を両手でひと撫でし、とてもいい顔をしている。


山になり、差し込む場所すらなくなるほど散々吸っていたタバコに見向きもせず、聞いて聞いてと言わんばかりにあたしに声をかけてきた。


「ああぁぁぁっ、歩ぅう~怜君と付き合う事になったよぉ!歩と雅也が協力してくれたからうまくいったんだ。マジありがとう!!」


「そっか。よかったね」


自分の気持ちを隠し、心では裏切っているあたしに優奈はくったくのない綺麗な笑顔を向けてくる。


その笑顔は、悔しいくらいに気持ちをますます握りつぶす。


「本当にありがとうだよ。お前との約束通り、あたしからは怜君を振らないから。信じて」


それなのに疑いもせず、心を預けてくる優奈。


そんな優奈を応援しきれていない汚い自分。


「信じてか…わかった。信じるよ」


悔しさが込み上げ、自分自身でもわからないくらい情けなくて、ぐちゃぐちゃで、悲しくて。


息がとても、とても苦しかった。