“♪‥♪♪‥♪”


電話の呼び出し音が鳴り、優奈は全ての力を注ぐかのように勢いよく受話器に飛びついた。


「はい!あっ、怜君!」


いつもよりトーンの高い声で話す優奈は緊張していて、あたしにもその緊張がひしひしと伝わってくる。


今にもひっくり返りそうな、危なっかしい声。


こっちもドキドキする。


「あのさ、雅也から聞いたよね。ん?えっ、歩?待って」


雅也がどんな風に話をまとめたかわからないが、事前に仕組んだ通り、あたしに電話は渡され、瞬く間に作戦はスタートした。


「もしもし、歩だけど」


「おう、久しぶり」


「怜君、あのさ、優奈いい子だから…えっと…」


受話器を受け取ったまではいいが、なかなかうまい言葉を言いだせない。


と言うか、気になる彼の声を聞いて鼓動が加速し、動揺が隠せない。


「あ~うん。いい子でさ…」


あたしが言葉の引き出しを手探り状態で探していると、しびれをきらした怜は覆いかぶさるように話しだした。


「うん。いい子だよな。でも俺、歩ちゃんの方がいい」


「ああぁぁぁ!!ちょっと待って!優奈いい子だから付き合ってあげて!」


あたしは勘が働き、怜の言いかけた言葉が聞こえなかったフリをして声を荒げ打ち消した。


こんな状況の中、優奈の前で怜とうまくいくなんてありえない話。


言いかけた言葉の続きはきっと、聞いてはいけない内容だから…


「優奈、はい!」


あたしは無理矢理電話を押し渡すと、何もなかったように笑った。


優奈は疑う様子もなく電話を受け取ると、熟れたトマトみたく顔を赤らめ、話を続けた。


「歩が先に言っちゃった…。あのね、あたし怜君好きになっちゃったの…あの、えっと、付き合って欲しいんだけど」


怜が断るか、付き合うか


答えがどっちに転がっても、複雑な心境であたしにとってはつらい現実。


怜はあたしの彼氏ではない。


怜は優奈の彼氏でもない。


今は


誰のものでもない。