家の中に慣れたように足を踏み入れ、靴を脱ぐ。

 悠希も私の様子をさして気に留めることもなく、リビングに招き入れた。

 テーブルの上には女物のカーディガンが畳んで置いてある。

 なるほど、悠希の言っていた希望ちゃんの忘れものとはきっとこのカーディガンのことだろうか。

 私が希望ちゃんの忘れ物に気を取られているうちに、悠希はコップに麦茶を入れて台所から戻ってきた。


「ほら麦茶。外、暑かっただろ」


「あ、ありがとう」


 悠希の手から冷えた麦茶を受け取ると、私はうつむき頬を赤らめた。


「にしても……琥珀も母さんみたいなこと言うなよー。俺だって分かってはいるけどさ、何も出来ないもどかしさっていうか、悔しくて」


 麦茶をがぶ飲みしながら悠希は眉間に皺を寄せ、言葉を詰まらせた。

 ポタリと悠希の髪の毛の先から雫が落ちる。

 こんなに近くで幼なじみを見たのは一体いつぶりだろう。

 いつの間に、こんなに変わったのだろう。

 目の前にいるのは、まるで知らない男の子のようだ。

 気が付くと私は自らの手を彼へと伸ばしていた。

 濡れた上半身にかけられたバスタオルを取り、髪から滴り落ちる雫をそっと拭う。


「え、琥珀?」


 悠希の声に名前を呼ばれ、我に返った私は、自分の手に持っているタオルに目を丸くした。


「あれ? ――――違っ! いくら夏でもお風呂上りにいつまでも濡れたままっていうのも風邪ひくと思って!」


 我ながらしどろもどろになっていたと思う。

 気付かれても仕方なかったはずなのに、悠希は何食わぬ顔で笑った。


「そっか。それもそうだなー。あ、そういえば俺、琥珀に聞きたいことがあったんだ」


「え、何?」


 悠希は不敵な笑みを浮かべながらリビングの外へ足を進め、言った。


「まあまあ、目のやりどころにも困ってるみたいですし? 服着てから、俺の部屋でゆっくり話しましょうや」


「なっ……!」


 完敗である。

 私は羞恥に顔を歪ませながら「うるさい」と反論の言葉を返した。