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 琥珀ちゃんが足を止めたのは、体育館の裏手にある木陰。

「ね、ここ、いい場所でしょ? 普段は誰も来ないし、穴場ってやつだよね」


 笑顔で話す琥珀ちゃんに、私は早速話題を振る。


「うん、琥珀ちゃん、あのね、私……好きな人ができたの」


 本当は、言いたくなかった。

 彼女にこの話をしてしまったら、私はもう、後ろを振り向くことが出来なくなるだろうから。


「え?」


 私は、一度目の覚悟をして、言う。


「聞いて、くれる?」


「もちろん! 誰なの?」


 琥珀ちゃんは、食い気味に私の言葉の続きを急かした。

 逃げ場はないと悟り、私は大きく息を吸い込んで、一息で言った。


「廈織くん」


 どんな言葉が返ってくるのか、私の心臓は緊張で今にも破裂してしまいそうだった。

 琥珀ちゃんの顔は驚いたものから嬉しそうな、気恥ずかしそうなものなど次々変わり、最後には安心したような表情で落ち着いた。