* * *
琥珀ちゃんが足を止めたのは、体育館の裏手にある木陰。
「ね、ここ、いい場所でしょ? 普段は誰も来ないし、穴場ってやつだよね」
笑顔で話す琥珀ちゃんに、私は早速話題を振る。
「うん、琥珀ちゃん、あのね、私……好きな人ができたの」
本当は、言いたくなかった。
彼女にこの話をしてしまったら、私はもう、後ろを振り向くことが出来なくなるだろうから。
「え?」
私は、一度目の覚悟をして、言う。
「聞いて、くれる?」
「もちろん! 誰なの?」
琥珀ちゃんは、食い気味に私の言葉の続きを急かした。
逃げ場はないと悟り、私は大きく息を吸い込んで、一息で言った。
「廈織くん」
どんな言葉が返ってくるのか、私の心臓は緊張で今にも破裂してしまいそうだった。
琥珀ちゃんの顔は驚いたものから嬉しそうな、気恥ずかしそうなものなど次々変わり、最後には安心したような表情で落ち着いた。