ホームルームが終わって、俺が教室を出ると、彼女が廊下を歩いているところが見えた。
「まーこちゃんっ。初デートとかさー、どこにする?」
今日も俺は甘い声で、彼女に話しかける。
「……ねぇ」
彼女の声だ。
こんなに早く反応してくれるのは、初めてだ。
「いい加減にして! なんでわたしは、そうやって楽しい高校生活をあんたに邪魔されないといけない訳!?」
彼女は、くっついてきた俺をいきなり引き離した。怒った目つきで、怒気を帯びた声を出す彼女。
「わたしは本当に嫌だから怒ってんの! それなのに、なんでいちいちあんたに色んなことされなきゃならないの?」
拳を握って、眉を吊り上げている。今、彼女が本気で怒っていることが分かる。
周りを見ると、全員が俺たちのことを見ているけれど、彼女は気づいていない。
「こうなるんだったら、他の高校を受験すれば良かった!」
俺は何も言い返せない。
そんな俺を見て、後悔したのか彼女は、
「……ご、ごめん。わたし、言いすぎた……」
と言った。さっきの怒鳴り声とは全然違い、かすれている。
「でも、嫌だったの。本当に。……ごめんなさい」
彼女が泣きそうだったにも関わらず、俺は何も言うことができなかった。ただ、その場で沈黙が続くしかなかった。
その場で見ていた人達も、気まずそうにしていて、誰も何も言わなかった。