これは、驚かないわけがない。こくこくと何度も頷いて答える。

確かに最初にポットの口から流れ出てきたのはオレンジ色だった。それなのに、今カップの中で揺れているのは淡いピンク。


「注ぎたては、オレンジの色が強く見えるんです。特にこの店は、照明もオレンジですしね。でも、注ぎ終わってしばらくすると、淡いピンクに変わっていく。些細な変化ですから、よく見ていないと気がつかないのですが……お客様はお目が高いですね」


楽しそうに笑って説明を終えたマスターが、手で“どうぞ”とカップを指し示す。

何だかとっても不思議だ。不思議で、そして面白い。

ますますこの店とマスターが気に入ったところで、見るからに華奢なカップの取っ手にそっと指を入れて持ち上げ、湯気と共に立ち上る柑橘の香りを吸い込む。

オレンジと桃が混じり合って、爽やかで甘くて、ホッとする。

ふーっと息を吹きかけてからカップに口をつけると、思っていたよりもずっと飲みやすい温度が唇に触れた。


「いかがでしょう。気に入っていただけましたか?」


カップから口を離して、ほう……っと一息ついたところで、マスターが微笑みかけてくる。

お砂糖は入っていないのにほんのりと甘くて、爽やかな香りが鼻に抜けていく感じがとてもいい。

自然と心が安らいで、ふわっと緊張が溶けていくように頬が緩んだ。