何と答えたらいいかわからなくて黙っていたら、それでもマスターは納得したように深く頷いた。
それから、ポットの蓋を開けて中を覗き込むと、口元に満足そうな笑みを浮かべて蓋を閉じる。
そして、用意していたカップに、思わず見惚れてしまうような優雅な所作で中身を注ぎ入れた。
ポットの細い口から流れ出たのはオレンジ色、それがとぽとぽと音を立ててカップの中に吸い込まれていく様を見つめていると、ふわりと爽やかな柑橘の香りが鼻をかすめた。
「オレンジと桃の紅茶です。オレンジの爽やかな香りと桃の優しい甘さをお楽しみください」
カウンターの向こうから、マスターが腕を伸ばして目の前にカップを置いてくれる。
ブレンドって、コーヒーじゃないんだ……と思いながらカップを覗き込むと、中ではほんのりピンクが揺れていた。
えっ……の形に開いた口から、果たしてちゃんと声は出ていただろうか。それくらい、驚いた。
「驚かれました?」
楽しそうな声に顔を上げると、声と全く同じに楽しそうな笑顔で、マスターがこちらを見つめていた。