注文を聞いたマスターは、くるりとこちらに背を向けて、左奥にあるカーテンをくぐって行く。
初めての店で一人ぼっちにされて、何だかちょっぴり心もとないが、気を紛らわせるのと時間つぶしに、ゆっくりと店内を見回す。
建物が洋風なら内装もまたそれに合わせた洋風で、しかもまた随分と年季が入っているように見える。
焦げ茶色のテーブルと同じ色味の椅子はどちらも木で、壁はクリーム色、電球は白ではなく優しいオレンジ。壁にかかった時計はおしゃれなアンティークで、ちくたくと穏やかに時を刻んでいる。
「お待たせしました」
声がして、視線をカウンターの方に戻すと、白いカップと揃いのティーポットを持ったマスターが立っていた。
「古いでしょ?でもこの古びた感じが、趣があると思いませんか」
そう言って、マスターは穏やかに微笑む。
「この店も、もう何年目になりますかね……。詳しいことはわかりませんが、ただ一つわかっていることは、私もいい年ですがこの店も同じくらい、いいお年だということですかね」
お茶目に片目を瞑ってみせるマスターに、思わず笑みが溢れる。