「お好きなお席にどうぞ」
四人がけ、もしくは三人がけのテーブル席が四つと、カウンター席が五つある店内を眺めながら、ゆっくりと進む。
どこかで聴いたことがあるような、でも曲名も歌手もさっぱり思い出せない洋楽が、緩やかにスピーカーから流れてくる中、迷うように視線を動かしていると
「よろしければ、こちらのお席はいかがですか?」
カウンターの向こうでにこにこ笑うマスターが、自分の向かい側を手で指し示した。
カウンター席に座っていいのは常連だけだと思っていたから、ほんの少し躊躇する。
でも、他にお客の姿はないのだし、何よりマスターが勧めてくれているのだから、誰に気兼ねすることもないだろう。実はカウンター席に密かな憧れもあった。
せっかくなのでお言葉に甘えて、そろそろとカウンターに近づくと、右側を一つ開けて腰を下ろす。丁度、マスターの真向かいに当たる位置取り。
「何になさいますか?」
お水とおしぼりのあとに差し出されたメニュー表を、受け取ってじっくりと眺める。
他の喫茶店でもよく見かける、軽食やデザート、ドリンクなどのラインナップを上から下まで順番に見ていくと、ある一点で視線が止まった。