レンガ造りのおしゃれな洋館。でも、そのレンガは所々ひび割れていて、ツタも絡まり放題で、何だかちょっぴり不気味。

一瞬廃屋だろうかと思ったが、そうでないのは建物の前に置かれた看板を見てわかった。

それは、先ほど路地の前で見たのと同じ看板。

“喫茶”の後に、何やら外国の言葉が書いてあるのだが、さっぱり読めない。店名だろうか。

看板の上部には小さなライトが取り付けられていて、オレンジ色の柔らかい光が書かれた文字を淡く照らしている。

喫茶店ならば、休んでいくのに丁度いい。温かいコーヒーを一杯飲んで、それから家へ帰ろうと、扉に手をかける。

古びて色あせた木製の扉を開ければ、ちりんと可愛らしい鈴の音が響いた。次いで


「いらっしゃいませ」


柔らかく耳に心地いい低音が迎えてくれる。
右手にカウンターがあって、その中に品のいい笑顔を浮かべる男性がいた。

ぱっと見はとても若いが、佇まいや落ち着いた雰囲気は若者のそれではなく、見た目からは年齢が判断できない。

彼が、この店のマスターだろうか。店内には、他に店員らしき人の姿はない。そして、お客の姿も。まさかの貸し切り状態だ。