りゅうさんの流れるような手つきとは違って少しぎこちないが、丁寧さはよく伝わってくる。
先ほどと同じ香りが鼻をかすめて、目の前に置かれたカップの中では、柔らかいオレンジ色が揺れている。
「“マスターオリジナル(気まぐれブレンド)”は、いつでも渾身の一杯をご用意しております。是非、ご賞味ください」
妙にかしこまったようなその言い方に、思わずくすりと笑みが溢れる。
華奢なカップをそっと持ち上げて中身を口に含むと、飲み込んでからほう……っと小さく息をついた。
それから、顔を上げてマスターに向き直る。
聞いてもらおう、この人に。この、恥ずかしがりやで優しいマスターに。
それでわたしの心に店名通りに平和が訪れたなら、明日からまた笑って頑張ろう。
ああ、でもその前に――――
「鈴宮 香って言います。聞いてくれますか?すっごく情けない話なんですけど」
「僕でよければ、喜んで」