「話してみてください。あなたの抱えているものを。僕は、あっじゃなくて……この店は、あなたのような方達の為にあるんです。疲れた心に平和を。だから“La Pace(ラ・パーチェ)”、“平和”なんですよ」


その聞きなれない言葉は、ひょっとしてあの看板に書いてあった文字だろうか。

意味は、平和—―—―。


「りゅうさんが言っていました。オリジナルを頼まれる方は、皆さんどこかお疲れになっているように見えるんだそうです。でも飲み終わって帰る頃になれば、表情が穏やかになっていると。だからこれは“特別な一杯”で、それを頼む方もまた“特別”なんです」


なるほど、りゅうさんが“特別”だと言っていたのには、そう言う意味があったのか。


「体の疲れは癒すことができます。けれど、心の疲れはそう簡単にはいかない。僕にできることは、お客様が望む一杯を提供することだけです。それでも、このオリジナルを選んだお客様が、少しでも楽な気持ちでお帰りになれたらいいなと思って、毎日心を込めてブレンドさせてもらっているんです」


マスターはカウンターに置きっぱなしになっていたティーポットを軽くゆすり、カップにゆっくりと注いでいく。