「辛い時に無理をするのは、心にも体にも良くないことなんです」
ひょっとしてこの人は、心配してくれているのだろうか。こんなにも真剣な顔をして。本当は恥ずかしがりやで人と目をあわせるのが苦手なのに、決して視線を逸らさずに。
きっとこの人は、優しい人なんだろう。初めて会った、名前も知らない誰かを本気で心配できるくらい、優しい人。
その優しさに触れられただけで、落ち込んでいた気持ちがほんの少し浮上する。
それだけでもう充分で、本当に何でもないのだと笑ってみせるも、マスターの眉間には皺が寄ったまま。
「初めて会った全く知らない人だからこそ、話せることもあると思います」
マスターが放ったその言葉が、今度はすとと胸の中に落ちてきて、じんわりと広がっていく。
温かくて、嬉しくて、くすぐったくて、ほんの少し……泣きそうになる。
ああ、やっぱりこの人は、このマスターは、とても優しい人だ。
「お力になれるかどうかはわかりません。でも、辛い気持ちを和らげることくらいはできると思うんです」
いつの間にかその眉間から皺は消えていた。
真っ直ぐに見つめ返しても決して目を逸らさずに、マスターは柔らかく微笑んでいる。