ほっとしたのも束の間、マスターはすたすたと早足にカウンターの中を進むと、先ほどまでりゅうさんが立っていた位置、丁度真向かいで足を止めた。


「どうされたんですか?」


聞こえた声に、あれ……?と思った。
ついさっきまでか細かった声が、今は妙に力強い。

顔を上げると視線がぶつかって、こんなにもばっちり目があっているのに、マスターは一向に恥ずかしそうに俯かない。

どうされたのかはこちらの台詞だ。先ほどとは、何だか雰囲気が違う。

その違いに戸惑っている間も、マスターは視線を逸らすことなく真っすぐにこちらを見つめている。

本当に、急にどうしたというのだろう。

とりあえず、なんでもないのだと首を横に振ってみせると、今度はマスターの眉間に微かに皺が寄る。


「嘘はだめですよ。それから、無理をするのもだめです」


ついさっきまでの恥ずかしがっておどおどした態度とは打って変わって、別人のようにきりっと引き締まった表情をしているマスターに、思わず瞬きを繰り返す。