それもほんの一瞬のことで、すぐにまた視線は逸らされてしまったけれど、その一瞬だけの笑顔に、不覚にも胸がドキッとした。

なんというか……かっこいいとか、整っているとかよりも、“綺麗”という言葉が、彼にはしっくりくる。

笑うと余計にそれが際立って、改めて、とっても綺麗な人だなと思った。

そんな綺麗な人に笑顔を向けられたら、そりゃあ誰だってドキッとするだろう。この場合、マスターが同性であってもドキッとしたに違いない。うん、きっとそう。


「あっ、あの、えっと……僕の顔に、何かついてますか……?」


恥ずかしそうに頬を染めたマスターの言葉に、はっとして慌てて弁解の言葉を口にする。

どうやら、無意識に見つめすぎてしまったらしい。

ちょっぴりおかしな空気になってしまったので、とりあえず目の前のカップに手を伸ばす。が、悲しいことに中身は既に空だった。

なんでだろう、先ほどまでは気にならなかった沈黙が、今は物凄く気になる。

空のカップをソーサーに戻して、やっぱり帰ろうかな……と思ったところで、遠慮がちなマスターの声が聞こえた。