あまりじろじろ見るのも悪いので、そっと視線を外してカップを持ち上げ、中身をゆっくりと口に含む。

冷めても美味しい紅茶を味わいながら、最後の一滴まできっちりと飲み干してカップをソーサーに戻す。

カチャッと微かにカップとソーサーが触れ合う音がして、マスターがはっとしたようにこちらを向いた。

目をあわせたらまた俯いてしまうか、最悪条件反射でカーテンの向こうに引っ込んでしまうかもしれないので、その視線に気がつかない振りをして、背もたれと背中の間に挟んでいた鞄を膝の上に持ってきて中から財布を取り出す。

使い古したお気に入りの財布を広げてお札を取り出そうとしたところで、なぜか視界の端でマスターがわたわたと慌て始めた。


「あっ、えっと……もう、お帰りですか……?」


なんとも不思議な事を聞く人だ。接客が苦手だと言うから、早めにお暇しようと思ったのに。

思いがけないマスターの言葉に反射で顔を上げてしまうと、案の定目があったマスターはびくっと体全体を揺らしてそっと視線を外した。