視線を向けると、恥ずかしさで耳まで赤く染まった顔と、泣きそうなほどに潤んだ瞳が目に入った。


「僕、あの……この店のマスターで、小向 晴人(こむかい はると)と言います」


真っ赤な顔でこちらを見つめて、はにかむように笑ってみせると、早々と限界が来たようでまたすぐ視線が床に向く。

この店の本物のマスターは、随分と恥ずかしがりやのようだ。確かにこれでは、接客もままならないだろう。


「そうだ晴人くん、せっかくですから、ここで少しお客様のお相手をお願いできますか?私は、この暇なうちに買い出しに行ってきますので」


カウンターの隅から聞こえてきたりゅうさんの声に、マスターが勢いよく顔を上げる。


「そ、そんな……!!僕には、無理ですよ」


なんとも頼りない声と表情に、りゅうさんが深く息を吐く。


「そんなこと、やってみないとわかりません。それにここは、きみの店なんですよ?晴人くん」


うっと言葉に詰まったマスターに、続くりゅうさんの声が打って変わって優しくなる。


「大丈夫、きみならできます。それに今日のお客様は、“特別”な方ですからね。お相手はやはり、晴人くんがいいと思います」