「マスターはあなたですからね。いつまでもそんな甘えたことは言っていられませんよ」
二人の会話を聞くともなしに聞きながら、まじまじと若い男性を見つめる。
この人が、この店の本当のマスター……。だいぶ、予想していたのと違う。
本人には失礼が過ぎるのでとても言えないが、やはりあの、“りゅうさん”と呼ばれていた男性がマスターだと言われた方がしっくりくる。
「ほら、ここまで来たら腹をくくって。ちゃんとお客様にご挨拶してください」
ぽんっと若いマスターの背中を押して、りゅうさんはそれっきりカウンターの隅で洗い終えたカップを拭き始める。
当のマスターはというと
「…………」
薄らと色づいた頬をかきながら、恥ずかしそうに俯いていた。
こちらから声をかけるべきだろうかとも思ったが、さっきの様子だと、声をかけた瞬間にカーテンの向こうに引っ込んでしまいそうだったので、何もせず黙って残りの紅茶を頂く。
この店では、不思議と沈黙もまるで気にならない。
「あっ……えっと…………」
緩やかなリズムの洋楽を聴きながらカップを傾けていると、ようやくか細い声が聞こえた。