「お口にあったようで何よりです。マスターも、きっと喜びます」
嬉しそうに頷いたマスターの言葉に、二口目を頂こうと傾きかけていたカップを元に戻して、はて?と首を傾げる。
聞き間違いだろうか……。
不思議そうな顔で首を傾げていると、それに気が付いたマスターが可笑しそうに笑った。
「もしかして、私がこの店のマスターだと思われました?」
もしかしなくてもそうだと思った。
だってこの店に入ってきた時、店内には彼一人しかいなかったわけだし、雰囲気から言ってどこからどう見ても彼がマスターだったし、それを疑う余地は微塵もなかった。
「ではせっかくなので、少々お待ちください。今、本物のマスターを呼んできます」
楽しそうにそう言って向かった先は、あの左奥にあるカーテン。
そう言えば注文を伝えたとき、なぜ彼は一度奥に引っ込んだのか少し不思議だった。
けれど、まさかそこに本物のマスターが隠れているだなんて思いもしない。
誰がどう見てもマスターな彼が、実はマスターではなかったという衝撃を噛み締めつつ、ゆっくりとカップを傾ける。
また誰もいなくなった店内で、一人寂しく紅茶を啜っていると、奥の方から微かに声が聞こえてきた。