いぢわる王子様

「なのにお前は、滝野へなびいた」


「だって……それは」


さっき、『俺が悪かった』って言ったじゃん!


「あいつと、どんなことをした?」


そう聞きながら、すぐるがすごい力で私をベッド押さえつける。


握り閉められた両腕が痛くて、顔をしかめる。


「誠先輩とは、なにもっ!!」


「嘘つけ」


「嘘じゃない! キスされただけ!!」


「キス……だと?」


すぐるが、私をにらみつけてくる。


キレイな顔が、余計に怖いよっ!!


「クソッ!!」


はき捨てるように小さな声でそう言うと、すぐるは私にキスをした。


それは、今までにないようなキス。


ただ触れるだけのキスなのに、ずっとずっと心の奥へ奥へと入ってくるように、深いキス。


「碧は……俺のものだ」


すぐる……?


さっきまでと変わらない険しい表情。


けれど、何故だかおびえたようにも見えた。


「誰にも渡さない。どこへも、行かせない」


「……すぐる?」


強さの中に見え隠れする、子犬のように弱弱しいすぐる。


どうしたの……?


微かに震えているのが伝わってくる。


「碧、契約違反2度目だ」


私を押さえつけている手の力を抜くと、すぐるはそう言った。


もう、震えてはいない。


「『俺がいないときになにがあっても、絶対に負けるな』。あの男になびいた時点で、この契約に違反したとみなす」


「すぐる、待ってよ! さっき、それは私が悪いんじゃないって!!」


「じゃあ、碧は俺が他の女とデートしたりキスしたりしても、平気なワケだ?」


ニヤニヤと笑うすぐるに、私は口を閉じた。


平気なワケ、ないじゃん……。


すると、すぐるは私の首筋にキスをした。


しるしをつけるために、長く、吸い付く。


そして、私の首には2つの赤いマークが深く刻み込まれた……。


『契約違反のキスマークが3つついたら、罰を行う』


「リーチな」


すぐるはそう言って、楽しそうに笑った……。