律のことだ。


きっと、私が素直に謝れば許してくれるだろう。


けど……。


私は、手を伸ばして携帯電話を取った。


昨日、律からメールがきていた。


《先輩とのデート、どうだったのか聞かせてね》


このメールには、返信していない。


たったこれだけの文章の中に、


『私のことは気にしなくていいからね。先輩との事も、隠さず話してね』


という、律の気持ちがギュッと込められていることが、わかったから。


私だったら、きっとこんなメールを送る事はできない。


好きな人と、他の女の子との話しなんて、絶対に聞きたくない。


律は、メールの最後をこう締めくくっていた。


《親友の、律より》


「親友……」


その言葉を声に出して言ってみる。


確かに、私と律は親友だ。


もしかしたら律は、それを確認するためにこんなメールを送ってきたのかもしれない。


「律……」


私は、重い体を起こす。


もし、律が私との関係を確認するためにメールを送ってきてくれたなら、このまま隠しているワケにはいかない。


本当は気が重すぎて休もうと思っていたが、私はノソノソと着替えを始めた。


着替えながらも、真っ黒なため息が出る。


目に見えない黒い息は空中に溶けることなく、その場にとどまり私を更に憂鬱な気持ちへ追い込んでいく。


自業自得だろ。


その黒い塊が、私にそう話しかけてくる。


自分でやったことだろう。


被害者はお前じゃない。


お前は裏切り者だ。


私の中の、罪悪感にまみれた私が、そう言っている。