「アハ。今度のデートまでに敬語使わないように練習すること」


「えぇ? そんな……」


困っていると、誠先輩は私の体を大きな腕で包み込んできた。


冷たくなっていた体が、一気に熱をおびる。


「碧……」


誠先輩が、耳元で私を呼び捨てにする。


……違う。


心の中で、そう思う。


なにが?


なにが違うんだろう?


「碧、好きだ」


すぐるには言われたことのないその言葉を、誠先輩が言う。


違う……。


誠先輩に好きだと言われてうれしい。


心の中が、ポッと温かくなる。


けど、違う。


私がほしい『好き』は、これじゃない……。


もっと、胸の奥がギュゥッと締め付けられて、息ができないくらいに苦しくて。


その人の事を考えるだけで死んじゃうんじゃないかって、不安になるくらい好きで……。


「……碧」


誠先輩の唇が、私の唇に触れた。


乾燥のせいで少し荒れてて、チクリと胸の方まで痛む。


違う……。


違う!!


思わず、誠先輩を両手で突き飛ばしていた。


バランスを崩した先輩は、そのまま後ろへしりもちをついてしまう。


「……っ!!」


涙が、出る。


唖然としたような誠先輩の顔が、目に焼きつく。


けれど、私は先輩に声をかけることなく、走り出していた。


なに、やっての?


なにやってんの? 私。


とめどなく流れる涙。


バカじゃん、私。


最低じゃん!!