「誰だっていいでしょ!? 用事がないなら出てってよ、着替えるんだからっ!」


「あ、もしかしてこの前の背の高い人?」


そういえば見られてたんだ!


「すごく優しそうで、カッコよくて、好青年って感じだったわよねぇ? よかったわねぇ碧」


慌てて否定しようとした私に、お母さんはそう言って微笑んだ。


「碧には全然いい話しがないから心配してたのよ?」


「そんな心配しなくてもいいのに」


「そうねぇ。あんないい人が見つかるなら、心配はいらなかったわ」


やっぱり、誠先輩の印象はかなりいいみたいだ。


お母さんの喜ぶ顔を見ていたら、私も自然とうれしくなってくる。


「ねぇ、どっちがいいかな?」


「服? 初めてのデートなら明るいほうが絶対いいわよ」


「そうかな?」


今度は、薄いピンク色のセーターを当ててみる。


「あら、可愛いじゃない」


「そう?」


「碧は童顔だから、無理して大人びたのを着るより可愛い服を選んだ方が得よ」


そう言って、自分でうんうんと頷いている。


私はそんなお母さんを見て、思わず笑った。


そういえば、共働きのお母さんとこうやって笑いあうのは久しぶりだ。


これも、誠先輩のおかげかもしれない……。


☆☆☆

待ち合わせの公園についたのは、約束の10分前だった。


「寒い……」


今日は急に冬らしく気温が下がり、吐き出す息も白くなっていた。


携帯電話で時間を確認し、どこかお店の中で待っていようかと辺りを見回す。


小さな公園から少し歩けばファミリーレストランがある。


でも、その間に誠先輩が来てしまうかもしれない。


そう思いなかなか動けずにいると、公園の入り口に見慣れた背の高い男の人が現れた。


「碧ちゃん!」


「誠先輩」


先輩の口からも、白い息が吐き出される。


「ごめんね、待った?」