「律……」


「ん?」


「私ね……」


ペンが、コロンと机の上に転がる。


私は自分が書いたへたくそなドラえもんから視線を離し、律を見た。


やっぱり、すごく険しい、真剣な顔をしてる。


「私……誠先輩と付き合うことにした」


「へ?」


一瞬目を見開き、それから視線を空中へ泳がせる律。
突然過ぎることで同様を隠し切れないようだ。


「律――」


「碧!!」


私の言葉を、律がさえぎった。


「謝ったりするのはナシだよ? 碧は何も悪いことしてないんだから」


そう言って、いつもと変わらない笑顔を見せる。


律……。


本当は、痛いハズだ。


私みたいに、胸の奥が、心の奥が壊れてしまうほどに痛いハズだ。


けれど、律はそんな表情ひとつも見せず、微笑んだ。


「そっか。だからS王子のことはもういいんだね」


「……うん」


これは本心? 嘘?


もう、わからない。


「碧、おめでとう」


私と対照的に、裏のない律の言葉。


胸が、また締め付けられる。


自分の気持ちが自分でわからないなんて、こんな事今までなかった。


すぐるに会うまで、こんな自分知らなかった。


「……ありがとう」


「じゃぁ、また平凡な毎日に逆戻りだねぇ」


「え?」


「だって、最近の碧バタバタしてたでしょ? 誠先輩が相手なら、きっと大丈夫だよ」


「大丈夫……」


律の言葉を繰り返す。


もう、いやがらせを受けることもない。


契約も、強引なキスも。


すぐるに振り回されることは、もう、ない――。


ここから、私の平凡な毎日が始まる……。