いぢわる王子様

誠先輩はそう言い、私の頬をつついてきた。


なんだか子供扱いされているようでくすぐったくて、自然と頬を膨らませ、眉間にシワをよせ、抵抗した。


「アハ。なんかいいねこういうの」


「え?」


「カップルっぽいっていうのかな? そんな感じしない?」


カップルっぽい……。


そういえば、カップルって手をつないで歩いたり、ちょっとした事で笑いあったりするものだよね。


「そうですね。……いきなりキスなんて、普通しないですよね……」


すぐるの顔が、瞬きするたびにパッパッとフラッシュのようによみがえる。


「……あいつとは、手つながなかったの?」


誠先輩の言葉に、私は一つ頷いた。


「すみません、一緒にいるのにこんな話しちゃって」


「あ、いいよ気にしなくても」


「でも……」


「そんなにすぐに吹っ切れるもんじゃないと思うからさ。ただ……」


私は誠先輩を見上げた。


学校の近くの大通りは、通学途中の生徒が多い。


その道に出る、手前のことだった。


先輩は立ち止まり、私の額に自分の額をコツンと当てる。


「誠……先輩?」


中腰になった誠先輩はそのまま目をつむり、「今は、俺を利用していいよ」と言った。


「え?」


「あいつを忘れるために、付き合ってくれていいよ」


……え?


「ただし」


誠先輩が目を開き、私の頬を両手で包み込んだ。


大きくて、すごく暖かい。


「いつか必ず、俺を好きになって」


そう言う誠先輩は、すごく辛そうな顔をしていて、思わず私は先輩の大きな背中に手を回した。


誠先輩の優しさが、痛い。


「私……好きですよ」


痛い気持ちを我慢して、必死で言葉を探る。


「誠先輩のこと、今も、すごく好きですよ。利用なんて、しないです」