私の頬に流れる涙は、誠先輩の手によって、止められた。


すぐるじゃ……ない。


それでも、目の下の腫れは翌日には治まっていて、誠先輩からの《家の前で待ってるから、一緒に学校行こう》というメールで外に出る気になれた。


「碧、もう大丈夫なの?」


仕事に出かける準備をしながら、お母さんが聞いてくる。


「うん。大丈夫だよ」


自分が思っていたよりも、もっとずっと元気な声が出た。


鏡を見ると、沈んでいる気持ちと対照的にいつもの笑顔の自分がいた。


その笑顔に、ホッと安堵のため息が漏れて、同時にチクリと心が痛んだ。


すぐるがいなくても、こんな笑顔が作れるという事実が胸に刺さったのだ。


玄関を出ると、メールの通り誠先輩が待っていてくれた。


「碧ちゃん!」


私を見つけて、すぐに駆け寄ってくる誠先輩。


「おはようございます」


なんだか照れくさくて、俯いたまま挨拶をした。


誠先輩は私の右手を握り「行こうか」と、歩き出した……。


「誠先輩って……」


「うん?」


「手、自然に握りますよね」


「そう?」


アハ。と笑い、「そんな事言われたの初めてかも」と言った。


「思えば私――」


「なに?」


「異性と手をつないで歩いたの、誠先輩が始めてです」


「え? 本当に?」


驚いたようにそう言い、私の顔を覗き込む。


「碧ちゃん、こんなに可愛いのに」