私が律にそう言ったとき、先生がやってきた。


「お前ら、もうここはいいぞ。客も減ってきたし、せっかくだから花火を近くで見てこい」


「いいんですかっ!?」


パッと笑顔になり、そう聞き返す前に私と律はすでに屋台を出ていた。


走りながらハッピとエプロンを脱いで、他のクラスの屋台にポイッと投げ込む。


それを受け取った友達が「ちょっと碧! 律!!」と文句を言う声が、後方に聞こえてくる。


それから、律と私はまるで小学生のように手を握り合い、屋台の群れから離れていった……。

☆☆☆

人波から少し離れた広場からだと、花火は建物に隠れることなくキレイに咲いた。


一応ここは穴場なのだけど、数人の先客たちがいた。


しかも、カップルばかり。


「キレイだねぇ」


広場の真ん中に、制服が汚れることなんてお構いなしに、律が寝転ぶ。


私も、その隣に寝転び、空を見上げた。


肌寒いけど、お祭りの熱を浴びた後なので心地いい。


油の匂いも、風に乗って取れるかもしれない。


花火から少し視線をずらすと、小さな星の姿も目に入った。


「これなら、カップルで来たくなるよねぇ」


と、律。


私はぼんやりと星を眺めながら、すぐるの顔を思い出した。


ポケットの中の、スーパーボールを握り締める。


すぐる、来てくれないかなぁ……。


「碧、S王子と来たかったって思ったでしょ?」


「えっ……そんなことないよっ!」


慌てて否定する私に、律が笑う。


「碧って本当にわかりやすいんだから」


「おかげで、嫌ってほど律にからかわれてるじゃない」


プゥと頬を膨らませる。


その時だった。


「碧?」


すぐるの声にパッと体を起こし、振り返る。


暗闇の中のすぐるが、花火の明かりによって赤や青に照らし出される。


「すぐるっ!」


想いが通じた!


そう思い、駆け寄ろうとして……足を、止めた。


すぐるの後方に、誠先輩がいる。


「誠先輩?」


律もそれに気づき、立ち上がった。


広がる、沈黙。


花火の音だけが、遠くに聞こえる。