私は、その嫌味な笑顔を真正面から受け止めながら、ギュッとこぶしを作った。


胸やけがするような、嫌な感じ。


自分の中の、ドロドロとした黒い感情が、清子さんによって表へ出てしまいそうになる。


「それが、どうかした?」


負けたくなくて、そう聞き返す。


「別に? すぐるも、かわいそうだと思って」


「……かわいそう?」


私は、眉をよせて首をかしげる。


なに、言ってるの?


清子さんは突然私の手首をつかみ、屋台の中から引っ張りだした。


火の暖かさがなくなり、急に体温が下がっていく。


「すぐるにはね」


「なによ」


「イイナズケがいるのよ」


……え?


清子さんの言葉が、私の中を通りぬける。


「い……い……?」


唖然として、言葉が出ない。


いいなずけ。


……許婚。


何度その言葉を繰り返しても、理解できない。


「だから言ったでしょ? すぐるにとってあなたは特別なワケじゃないって。

私、碧さんにいじわるで言ってるわけじゃないのよ? すぐるに溺れれば溺れるほど、後で傷つくのは碧さんよ」


そんな……。


そんな事、いきなり言われたって……。


本当は、清子さんの言葉にかなり動揺していた。


あれほど幸せだった気持ちが、一瞬にして消えていく。


だけど……私は、笑った。


清子さんが、少し驚いたように目を丸くする。


驚いた表情も、とても綺麗な人だった。