キョトンとしていると、律が私の首筋を指差してきた。


「これ。この時期に虫にかまれたりはしないよなぁって、ずっと気になってたんだけど」


「虫……?」


一瞬、何のことか理解できずに首をかしげる。


しかし、次の瞬間、思い出した!


すぐるにつけられたキスマーク!!


まだクッキリと残っていたのだ。


咄嗟にその場所を手でかくし「何でもないよ」と言いながら、ポテトを揚げる。


油がジュワッと音を立てて、おいしそうな香りがフンワリと広がる。


「碧~! ごまかすな!!」


「ちょっ律、油使ってるんだから危ないってば!!」


私の腰をくすぐってくる律に、私はじゃれる。


ポテトも、油の中でおいしそうな狐色になりつつある、その時だった。


「碧さん」


聞きなれたその声に、私はビクッと体を縮める。


「清子さん……」


振り向くと、屋台の裏に清子さんが立っていた。


すごく、険しい表情で。


「なに?」


私は、強気でそう聞き返した。


すぐるの、『契約違反のキスマークが3つついたら、罰を行う』というあの言葉をしっかりと覚えていたから。


「あなた、まだすぐると一緒にいるのね」


『呆れた』


そんな言葉が語尾に隠れているような、ため息を吐いた。


律が、私のかわりにせっせとポテトを揚げていく。


客に出すときに、もう一度サッと揚げなければならないから、手を休めている暇がないのだ。


「そうだけど?」


私は、清子さんをまっすぐに見つめ返した。


すると、清子さんは軽く笑みを作った。


小ばかにして、人を見下すような笑顔だ。