「ほら、帰ろ?」


誠先輩はそう言って、今度は私の荷物をヒョイと抱え上げて、歩き出した。


「先輩! カバンくらい自分で持ちますから!」


「いいのいいの。男はね、女を守るために筋肉がついてるんだから」


「守るためって……。カバンは荷物ですけど」


そう言う私に誠先輩はまた、アハと笑って「細かいこと気にしすぎ」と言った。


細かいこと……かな?


まだよく知らない年上の男性にいきなりカバンを持ってもらって歩くなんて、なんだか変な気分。


すぐるみたいに突然キスしてくるのも変だけど、この人も同じくらい変かも。


そんなことを思いながら、ゆっくりと歩いていく。


学校を出てすぐ、細い道を入っていくと生徒たちの姿もほとんどない。


車の通りもすくなくて、落ち葉を踏む足音は、私たちだけのもの。


「あの……」


沈黙が苦しくて、私の方から声をかけた。


「うん?」


「なんで、あのタイミングで声をかけてきたんですか?」


「あのタイミングって?」


「……だから……あの……」


すぐるが、私を置いて帰ってしまった、あのタイミング。


「俺はさ。泣いてる女の子をほっといて帰ることができないんだ。あいつと違って」


誠先輩の言葉に、胸がズキンと痛む。


深く、鋭い痛み。


「誠先輩は……すぐるをよく知ってるんですか?」


「んん……、そうだね。あいつをっていうより、北河を、よく知ってるんだ」


「清子さんを?」


誠先輩は、清子さんの知り合い?


じゃぁ、清子さんが私や他の子たちにしてたイヤガラセも、知ってるってこと?


「北河は、かわいそうな子でね」


「……清子さんが?」


全然、かわいそうになんて見えない。


美人で、頭がよくて。


すぐると同じで、家も大きいハズだ。


なにも、不自由なんてしてない。


それなのに、私は……。


知らず知らずの内に、眉間にシワがよる。


清子さんのことを思い出すと、表情が険しくなる自分がいる。