「すぐるっ!!」


呼び止めようとする私の声を無視して、すぐるは自転車にまたがり、走りだした。


どうして?


大声で呼び止めたいけど、声が詰まって出てこない。


『清子のこと、責めないでやってほしいんだ』


わかんない……。


すぐるの考えてることが、わかんないよっ!


どんどんどんどん、すぐるの後姿が小さくなって行く。


私は、その様子をただバカみたいに見つめていることしか、できなかった……。

☆☆☆

「碧ちゃん、大丈夫?」


その言葉に一瞬ビクッと身を縮め、それから振り返る。


「アハ。そんなに驚かなくてもいいじゃん」


そう言って、誠先輩が笑った。


秋なのに、春の花みたいにポッと温かくなるような、笑顔だった。


「目、真っ赤。こすったらダメだよ?」


誠先輩はそう言って、目薬を差し出してきた。


私はそれを無言のまま受け取り、先輩を見上げる。


本当に、背、高い。


すっと顔を見てると、首が痛くなりそうだった。

「碧ちゃん、家どっち?」


「……むこう、ですけど」


私は、自分の家の方向を指差した。


大きなスーパーが立ち並ぶ通りかた、細い道へ入った場所にある。


「ちょうど、俺の家もそっち方面なんだ」


そう言うと、誠先輩は私の右手を握り締めてきた。


その動作があまりにも自然すぎて、思わず握り返してしまう。


「あ、ごめんね?」


慌てて手を離した私に、誠先輩が申し訳なさそうに言う。


なんか、こういうの慣れてる感じ?


見た目、全然そんなんじゃないのに。