すぐるの名前が誠先輩の口から出てくるのに、時間はかからなかった。


「あいつと付き合ってた子たち、全員同じ目にあってんだよね」


ズキン。


ズキン。


胸が苦しくて、声ができない。


数日前に見た虹は今はもう消えていて、ほんの少しの幻だったのだと、空があざ笑う。


「学校が違う子でさえ、同じようにいやがらせを受けてた。

君も、あいつと付き合ってるんだよね?」


「……っ!」


誠先輩の質問に答えられず、私は走り出していた。


冷たい空気が、顔に当たって痛い。


その痛みで、ようやく涙が出た。


一回出ると、もうとまらない。


我慢していたものが、ボロボロと、全部水滴となって目からあふれ出す。


「碧!!」


前方に、誰かがいる。


私の名前を呼んでる。


けど、視界がゆがんで見えないよ。


「碧、どうした? 何泣いてる?」


その人物がすぐるだとようやく気づき、私は勢いよくその胸に飛び込んでいった。