「おい、なにコソコソしてんだよ」


相手にいきなり右腕をつかまれて、思わず悲鳴を上げそうになる。


「保健室、行くぞ」


「えっ……ちょっと……!」


抵抗むなしく、ずるずると引きずられるようにして律から引き離される。


大好きなメロンクリームパンが床に落ちた。


律!!


助けて!!


必死の思いを込めて律を振り返ったが……生徒たちに紛れ込んでしまい、律の姿はもう見えなかった……。


律……。


この、卑怯者ー!!

病気をほとんどしない、いたって健康な私は保健室という場所が苦手だった。


白いベッドとか、消毒液の匂いとか。


いかにも病人がいますって場所だから。


「入れよ」


入り口の前で躊躇していた私を、さっきの男子生徒が引っ張り込む。


それと同時に、苦手な匂いが鼻についた。

「先生、いないんだ」


見回してみても、誰もいない。


ベッドを仕切るカーテンもすべて空いていて、私たち、二人きり、みたいだ。


「ほら、拭けよ」


男子生徒はそう言い、雑巾を私に投げてよこした。


この人、本当に雑巾で拭かせる気だ……。


「あの……」


「なんだよ」


「雑巾より、私のハンカチの方が綺麗ですけど」