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クラスに入ると、まずは親友の律が大きく手を振りながらかけてくる。


いつもの光景だ。


「おはよう律。ねぇ、これ」


そう言ってさっき降って来たゴミ箱を差し出すと、律はキョトンとした顔をし、その後すぐに大声で笑い始めた。


「なに? なんでいきなりゴミ箱持ってんの!?」


確かに、かなり奇妙な光景だと思う。


けれど、私だって好きでゴミ箱を持ってるワケじゃない。


「さっき、降って来たのよ」


「降って来た?」


律に、ついさっきの出来事を身振り手振りで話して聞かせる。

律は、最初は興味深々に聞いていたのだけれど、途中からは首をかしげたり、鼻のあたまをかいたりし始めた。


「ちょっと、真剣に聞いてるの?」


「う~ん……だってさ、それ確かにこのクラス名が書いてあるけどさぁ」


そう言い、律は教室の後方を指差す。


そこには、いつも使っているゴミ箱が、ちゃんとあった。


「あれ!? 何で!?」


「何でって言われても、私もわかんない」


ヒョイッと肩をすくめる律とほっといて、私は教室にあるゴミ箱と、持っているゴミ箱を見比べてみた。

色も、形も、大きさも同じ。


1-Bと書かれている所も同じ。


けど……。


「文字が違う」


と、呟く。


私が持っている方のゴミ箱は、丸っこい女の子らしい文字。


けど、置いてある方は殴り書きで、ところどころインクがとれている。


使い古されている証拠だ。


「こりゃぁ、手のこんだいたずらだね」


隣でその様子を見ていた律が呟く。


いたずら……。


「どう見ても、碧の持ってるゴミ箱は真新しいよ。それにゴミをつめて、クラス名書いて上から落としたんだろうね」


「って……待ってよ。それってなんのために?」


「知らないよ。碧、あんた誰かに恨まれてるんじゃない?」


恨まれて……?


けど、ここまでされるほど嫌われた事なんかない。


ゴミ箱がもし当たってたら、大怪我をしたかもしれないのに。