私は、パジャマ姿にカーディガンを羽織り、こっそりと家を抜け出した。


もし親に見つかったら、きっと止められてしまうから。


ほんのりと明るくなり始めた世界は空気が冷たくて、思わず身震いする。


この時間だと、タクシーはすぐにつかまる。


タイミングよく走ってきたタクシーを止めて乗り込むと、私は、震える声で場所を告げた……。


車で、一体何分くらいだろうか?


たぶん、10分くらいだと思う。


気持ちが重たすぎて、もっと長い時間だったように感じる。


付いた場所は、ある大きな家の前だった。


「ここ……」


この辺じゃ有名な豪邸だ。


もちろん、私もずっと前から知っている。


ここが、すぐるの家だったなんて……。

信じられず、しばらく家の前で突っ立っていると一人の大きな男の人が顔を出した。


「君が、山本碧さんかい?」


電話と同じ声だ。


私はひとつうなづくと、その人――すぐるの父親は、私を家の中へと招きいれた。


家の中は、その外観通り洋風の屋敷を思わせるつくりだった。

真っ赤なカーペットに、入ってすぐ広がる大広場。


私がどこで靴を脱げばいいか迷っていると、「靴はそのままで」と、言われた。


そんな家の、ある一室。


そこに、すぐるは寝かされていた。


真っ白なベッドの上に、目を閉じて……。