『君は、すぐるの恋人だね?』


「はい……。そうなってますけど?」


勝手に決められて《彼女》という座を押し付けられただけ。


とは、言えない。


『私は、すぐるの父です』


「ちち……?」


聞き返し、ポカンと口をあける。


父って……すぐるの父親!?


なんで!? どうして!?

『落ち着いて、聞いてほしい事がある』


「は……はい」


思わずベッドの上に正座をして、ゴクリと唾を飲む。


落ち着いて聞け。


といわれても、無理な話だ。


なんでいきなり、すぐるが登録したこの番号から、すぐるの父親が電話してくるのか全く理解できない。


しかも、こんな時間にだ。


『実はね……』


また、何度か咳払いをして、すぐるの父親は話しをはじめた……。

☆☆☆


携帯電話が、自分の膝の上にある。


電話はとっくの前に切れていて、画面は真っ暗だ。


けれど、私はまだベッドの上で正座をしていた。


体が、カタカタと小刻みに震える。


なんで?


寒いから?


……違う。


すぐるの父親、森山直樹さんから電話をもらったからだ。


内容は?


なんだっけ?


なんで私、震えてるんだっけ?


私の頬に、冷たい涙が伝った。


「すぐる……」


口から、自然とその名前が零れ落ちる。


自分でも驚くくらい、情けない声。


その時、森山直樹さんが言った言葉を思い出した。


『ついさっき、すぐるが亡くなった』


何の感情も込めていない、義務的な口調。


『もしよかったら、今から来て手伝ってほしい事がある。家の住所は――』


うそでしょ……?


すぐる――!!