「彼氏をフルネームで呼ぶな馬鹿」


「なっなっ……!!」


パニックを起こす私の目の前に、森山すぐるはズイッと携帯電話を突き出してきた。


「へ?」


「番号。教えるの忘れたから」


番号……?


「碧のスマホかして」


「あ、カバンの中……」


って、今私のこと呼び捨てにした!?


彼氏いない暦16年の私。


はじめて異性に呼び捨てにされましたっ!!


……なんて喜んでる場合じゃないよ!


「あの……」


「あん?」


「私、返事してませんけど」


「何が?」


森山すぐるは、私のスマホをなれた手つきでいじくりまわす。


「あなたの彼女になるとか……言ってませんけど!」


勇気を出して、そう言ったのだが……。


森山すぐるは私のスマホに視線を落としたまま、鼻でフンッと笑った。


なに、その失礼な態度!


「碧さぁ、なんか勘違いしてねぇ?」


「勘違い?」


「そ。俺が、俺の女だって言ったら、碧は俺の女なワケ。わかる?」


わかる?


って聞かれても、わかるわけないじゃん!


「つまりさ、碧に拒否権はないって事」


そう言うと、森山すぐるは私の頬に手を当てた。


その感覚に、一瞬ビクッと身を縮める。


「怖い?」


「え?」


「俺のこと」


怖いもなにも……。


怖いに決まってるんだけど……。