「おじゃまします」


私はスリッパに履き替えて、この家のどこかにいるであろうすぐるの両親へ向けて声をかける。


「あ、親父たちは海外旅行に行ってるんだ」


「旅行中なの?」


「あぁ。俺が碧と2人でパーティーしたいって言ったら本人たちまで気ぃきかしたんだよ」


「そうなんだ……」


じゃぁ、この大きな家の中私とすぐる2人きり?


トクン。


心臓が、高鳴る。


すぐると出会った秋を思い出した。


誰もいない、保健室。


2人きりの、保健室。


自分たちのキスシーンを思い出し、思わず頬が赤くなる。


……嫌だ私、変な事考えちゃった。


フルフルと頭をふって、頬を冷たい手で冷やす。


なにか期待してるように見えたらどうしよう。


そんなことを思っていると、すぐるの部屋についた。


その扉を開けた瞬間……。


私は目を丸くして立ち止まった。


「入れよ」


すぐるがそう言うが、足が動かない。


「これ……」


部屋の中には、一杯の、バラ――。


よく、ドラマなんかで見るようなバラで埋め尽くされた、部屋。