そして、無理矢理笑顔をつくると、「そういえば、今日はお祭りだね!」と、話題を変えた。


「あぁ、そうだったな。ここからでも花火は見えるぞ」


と、すぐるが窓の外へ目をやる。


「弥生、何か食べたいものないか?」


「え?」


すぐるの言葉に弥生さんが振り向く。


少しだけ、目が充血しているのが見えた。


「すぐ近くだし、屋台で買ってきてやる」


「本当?」


弥生さんの表情が、パァッと晴れた。


「じゃぁ、イチゴ飴! 私、イチゴ飴が食べたい」


「言うと思ったよ」


すぐると、清子さんと……そして弥生さんの笑い声が聞こえていた……。


☆☆☆

3人が笑いあっていたのは、ほんの数時間前。


病院の廊下には、イチゴ飴を持ったすぐるがベンチに座っていた。


隣には、泣きじゃくる清子さんの姿。


外はもう真っ暗で、花火の音が遠くから聞こえてくる。


『ここからでも花火は見えるぞ』


すぐるは自分の言葉を思い出し、ギュッと下唇をかみ締めた。


「弥生……花火が見えるぞ」


廊下の端にある大きな窓から、外を眺める。


「すっげぇ……キレイだぞ」


すぐるの声が、か細く震える。


手の中のイチゴ飴も、それに合わせて震えた。


弥生さんが寝かされているベッドの脇で、看護士が一人。


弥生さんの体を、丁寧にタオルで拭いていく。


その横には……エンジェルセット……。


「弥生……」


その様子を見ていた清子さんが呟く。


「すぐるのこと、守るから……。絶対に、守るから――!!」