今から2年前の秋。


真っ白な病室で、すぐると清子さんが隣り合って座っている。


その視線の先には、ベッドに寝転ぶ1人の少女。


少女の肌は白く不健康なほどに細い。


折れてしまいそうな体とは裏腹に、明るい笑い声が響き渡る。


「弥生」


すぐるが、ベッドの上の少女へ声をかける。


「なぁに?」


「暖かくなったら、また桜を見に行こうな」

そう言って、すぐるは一枚の写真を取り出した。


本に挟まっていた、あの写真だ。


「あの桜、キレイだったよね。今度は清子も一緒に行こうよ」


「えぇ~? 私も?」


「嫌なの?」


「だって、2人のお邪魔にはなりたくないし」


と、清子さんは軽く頬を膨らませる。


まだ幼い顔の清子さんに、今の冷たさは見当たらない。


「ねぇ……」


弥生さんが、外の枯れ木へと視線を移す。

「もし……ね」


「どうした?」


「もし……桜の季節まで私が生きられなかっったら」


「何言ってんだよ」


すぐると清子さんの表情が、一瞬にして固くなる。


「そのときは……清子」


「え?」


「すぐるを、お願いね?」


弥生さんは相変わらず外へ目を向けたままで、その表情が伺えない。


清子さんの目の中が、微かにうるんだ。