「なんなの?」


さっきまでは負けちゃいけないと思っていたのに、今では完全に清子さんのペースの飲まれてしまっている。


その、次の瞬間。


清子さんが……私に、抱きついてきたのだ。


細くてやわらかくて、丸みのある、女の子の体。


「わかる……?」


え……?


「私の鼓動、碧さんにも伝わってるでしょう?」


トクン。


トクン。


トクン。


規則正しい、メトロノーム。


「清子……さん?」


「あなた、私にイヤガラセをされる理由を『すぐると付き合っているから』だって、思ってるでしょう」


……違うの?


清子さんの腕が、私の背中をなでる。


その、男性的ななで方に、一瞬身震いした。


「碧さん、私の事をどこまで知ってるの?」


「え……?」


「すぐるや滝野先輩から、少しは聞いてるんでしょう?」


「……大切な人を失ったって……それだけです」


それと、イヤガラセは関係ないと思っていた。

しかし、清子さんはクスクスと笑い、「それだけ知ってれば、十分よ」と言った。


「どういう意味よ……。ちゃんと教えてよ」


「碧さん、あなたまだわからないの? 本当に、鈍感ね」


そう言うと、清子さんはいきなり私の唇にキスをしてきた。


一瞬目を見開き、それから無意識のうちに清子さんを突き飛ばす。


清子さんは後ろの扉に背中を撃ちつけ、顔をしかめた。


なに……?


なに?


なに?


なんなの!?

頭の中が、パニックになる。


今の出来事が理解できず、涙が出た。


「私の大切な人っていうのはね……」


清子さんが、まっすぐに私を見つめる。


「弥生のことよ」