「碧ちゃん、俺が言ったこと忘れた?」


「え……?」


首をかしげる。


なんのこと?


「『北河はかわいそうな子なんだ』って、前に言ったよね?」


あ……。


そういえば、そんな話を聞いた覚えがある。


たしか……。


「大切な人が、亡くなったって話しですよね?」


「そう」


誠先輩は、真剣な表情でうなずいた。


「碧ちゃんも、結局は嘘だったけど、大切な人を失う悲しさを経験したよね」


私は、すぐるの事を思い出す。


真っ白なベッドの上で、静かに目を閉じていたすぐる。


あの瞳が、本当にもう二度と開かなかったとしたら……。


私は、強く頭を振ってその考えをかき消した。


そんなこと、考えたくない。


考えられない。


「……悲しいとか辛いとか、そんな思い、通り越しちゃいます。全部奪われてしまったような……そんな、絶望感……」


「それを、北河は経験してるんだよ」


優しい口調で、子供をなだめるかのように誠先輩はそう言った。


けれど、私にはわからない。


そのことと、イヤガラセと、一体何の関係があるのか。


「後は、碧ちゃんが自分で直接北河に聞いてみるんだな」


え!?


私が直接!?


「む……無理ですよ!」


ブンブンと首を振る私に、律もうなずく。


何が原因でイヤガラセをされているのか、確かに知りたいと思う。


けど、それを直接聞くには、勇気がいる。