「今は、本気で碧のことが好きだ。碧しか、いない」


「……うん」


『好きだ』ずっとほしかった、すぐるからのその言葉。


それだけで胸が一杯になって、少し苦しい。


涙が出そう。


「だから……」


なに?


「だから、碧にはちゃんと言おうと思う」


「え……?」


「弥生と、清子のこと……」


ズキン。


やっぱり、すぐるの口から他の女の人の名前が出ると、胸が痛む。


けど、聞かなきゃいけない。


これは、私の問題でもあるんだ。


逃げてちゃ、いけない。


私は、すぐるの手をそっと解き、体を反転させた。


ベッドの上で、互いに見詰め合う2人。


「すぐる……」


すぐるの体が、微かに震えている。


前に見たのと同じ、不安そうな顔。


いつものS王子の顔は、どこにもない。


「教えて? 私に」


小さく呟き、すぐるの頭をなでた。


すぐるが、子供のように私の胸に顔をうずめる。

「弥生は……俺たちと同い年なんだ」


「16?」


「そう。……いや、正式には14」


「え?」


言っていることの意味がわからなくて、私は首をかしげる。


すぐるの震えが、更に増した。


何か言おうとしている、けど、それを言うには力がいるのだ。


私は、すぐるの体を抱きしめた。


「大丈夫だよ。言って?」


「死んだんだ」


え……?

「弥生は、14の時に病気で死んだ」


すぐるの声が震えて、今にも消えてしまいそうにか細い。


「すぐる……それって、一体?」


机の上のイタズラ。


スカートに書かれたイタズラ。


その名前の人物が、死んでいた……?


どういうこと?


「俺は、弥生のことが好きだった」


う……そ。


見たことのない『長浜弥生』を思い浮かべる。


もう亡くなっているというのに、嫉妬している自分が情けない。